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天城をガイドする(2) [自然]

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まるで夏だ。暑い。
どうかしているな今年の秋。
ダックスの散歩も長袖では暑すぎた。Tシャツ姿の若者も多い。
三連休の人出はどうなのだろう。暑すぎてマスクを外す人も多いのかも。
最近は多くの農家が直売をしている。
野菜は当然のこと、梨、葡萄、柿、リンゴの果物も多い。
ある程度組合員間で売価は調整しているはずだが、どこもよく売れている。
先日つき合いのある農家がこぼしていた。
低価格のルートから仕入れた野菜や果物を販売している組合員がいるというのだ
驚いた。こうなると農家ではなく八百屋だ。
ダックスの散歩の途中、その売店を覗いてみたらパイナップルまで並んでいた。
安いから買い物客が後を絶たない。
種子法改正が可決された。将来の日本農業に悪影響が出なければ良いがと思う。
でも、安い外国産の野菜や果物を全国中の農家が売れば、
そんな心配は杞憂に過ぎないのかもな。自分みたいな門外漢が憂うことでもないか。
みんながそんな風に感じだしたらこの国の未来は暗いよなぁ。

八丁池に到着した。
時計はあと少しで13時になるところだ。
それにしても人が少ない。
途中、出会った人数はトレランとマウンテンバイカーが各一人と男女のペアが一組だけだ。
Tさんにもやっと笑顔が戻った。
「綺麗でしょ。モリアオガエルの生息地でもあるんですよ」
「ヘーそうなんだ」
「遅くなりましたけど昼食にしましょうよ」
「そうですねちょっと腹も空きましたね」
そんな会話をしながら石階段のある池北側に歩を進めた。
ザックを下ろすと、身体が急に軽くなった。
それもそのはずで、2Lの水とガスボンベや調理器具が入っていたのだからな。
早速、ガスに火を点けて水を湧かす。
ティバッグの日本茶を入れる
コーヒーを飲まないTさんは「あぁこりゃ美味い」と笑顔を見せた。
「何を用意しましたか」と問うと
「いつもカップヌードルです」と答えた。
Tさんは勤めていた会社の同僚数名とよく山を登っていた。
北アルプスの表銀座から槍ヶ岳、南アルプスの北岳、間ノ岳、八ヶ岳等々、自分より頻繁に名山を踏破しているのだが、どうしたわけか基本が飛ばされているようなのだ。
例えば、歩き方、息の整え方、ポールの突き方などである。
恐らく、知識豊富なリーダー格に全てを委ねた登山だったのだろう。

カップヌードルは持ち帰って貰うことにし、持参した、カップカレーライスに湯を注いだ。
まぁ同じようなものだけど。
次はモツ鍋を温める。
「ヘェー。そんな物まで用意してくれたのですか」とTさんが驚く。
本当は豪華鍋焼きうどんを持参したかったのだが如何せん二人分は重い。
さぁ靄が流れる池を前面に昼食だ。
紅葉には少し早かったがそれにしても美しい風景だ。
テントを張りたい衝動に駆られた。
小一時間の休憩を終わり、下山の準備に入った。
背中も大分軽くなった。
それにしても人がまばらだ。以前、全山縦走した春には数え切れないほどの人の賑わいだった。
もちろん、今回の静寂の方が有り難い。
名残惜しい景色を後に、見晴台に向かう。
清潔なトイレが整備されている。有り難いことである。
見晴台からは池以外は何も見えなかった。ほぼ全てが靄に包まれていた。
直ぐに分岐に出る。Tさんは「天城隧道」を見たことがないという。
下山を隧道方面と決めた。
しかしだ。はたしてTさんの下山速度はどの程度なのか分からない。
時計は14時をまわっている。この時期、夕暮れは早い。
「下りはどうですか。ちょっとだけ早くても大丈夫ですか」
「ハイ下りはついて行けます」
もっともいつもの調子で飛ばしたら無理なことは分かっているから
適度な速度で下り始めた。
しばらく下ると沢から急斜面を登ってくる女性が見えた。
軽装で手提げ袋を手にしている。道迷いだなと直感した。
危険極まりない。
自分たちの後を付かず離れずでついてくる。
上り同様数十分毎に立ち休みをとった。そしてその都度、Tさんに水を飲ませる。
先ほどの女性が追い越していった。
風体は、そこいらのスーパーへ買い物にって感じだった。
大山や高尾山系で多く見られるお手軽ハイカーの体だ
自分の場合、あまりこの手合いとは接触を持たないようにしている。
低かろうが山は山だ。危険はいくらでも遭遇する。
ハイカーであろうとも、最低限の備えは必要なのだ。
5分の休憩後、先を進む。Tさんもなんとか付いてきている。
地図を確認するともうすぐ分岐である。
ここで大失敗をしてしまうことになった。
天城峠方面に進もうとしたらTさんが「こちらに案内板がありますよ」と大声で叫んだ。
目を向けると手すりが掛かった上りをさっきの女性が歩いている。
案内板には「水生地」とある。
時刻はもうすぐ15時だ。Tさんの歩調に合わせると隧道に着く頃には暗くなるだろう。
今回は諦めるかと予定を変更することにした。
少しのアップダウンでもTさんの呼吸が荒れている。
50m程先を先ほどの女性が歩いているのが見えた。
それにしても足下が荒れている。そこいら中に落石と思える石が転がる。
路面も湿気で濡れており苔生している。
おかしい...
立ち止まって紙地図を確認するといわゆる破線道だと推測できた。
かなり下りてしまった。分岐に戻るにも、Tさんが保たないだろう。
カーブを曲がると女性が立ち止まっていた。
「何故、こんな道を選んだの?」と聞くと「面白そうだから」と答えた。
もう何をか言わんやだ。
Tさんに休んでもらい、急いで先の状況を探りに下る。
ゲゲッ!倒木やら崩落やらエトセトラの状況だ。
自分はこんなところが大好きである。
バリエーションルートは我が喜びだ!何てことが今回は通じない。
状況を話すとTさんはやはり、分岐に戻るのは嫌だという。
そして、全て自分に委ねるというし、女性もついてきたいという。
えらいことになったが、周囲は薄いオレンジ色に染まりだした。
倒木を跨ぎそして潜り、斜面を三点支持で降り登りを繰り返し、
やっと一息できる地点にやって来た。下の方に山葵田も見えている。
あぁ良かったとため息が出た。
二人をその場に止め、先を探る。
ゲゲッ!数え切れない倒木が沢まで塞いでいるではないか!
どう考えてもこれは越せない。
紙地図を広げる。もう朝出発した分岐は近い。
沢に降りるしかないと決め、二人にそれを話した。
目前の倒木に二人とも驚きの声を上げた。
Tさんは「こんなコース生まれて初めてです。」と驚嘆していた。
先ず、自分が降りたのだが、斜面は脆く石が転がる。
慎重を期して、一人ずつ降りて貰った。
次は渡渉だが、沢の幅は狭小だから心配はない。
無事に対岸に渡り登山道に入ることが出来た。
10分ほどで治山工事事務所に到着した。
時計は16時丁度で概ね予定通りで済んだ。
バス利用の女性とはここでわかれたが、
「助かりました」と礼を言われた。
しばらくすると工事関係者が現場から帰ってきた。
「どこから下りてきた?」と聞かれたので、立ち入り禁止の登り口を指さす。
「ヘェ!よく下りてきたな。えらく荒れてただろ?」
「ええ でも面白かった」
「無事で良かったよ 月初めに遭難者がヘリコプターで救助されたんだよ」
驚いたがなんでこの程度の道でとは思ったが、経験のない人には危険すぎるのだろう。
過信は禁物だと肝に銘じた。
Tさんは「良い経験をさせて貰った」と労ってくれたが、間違いなくガイドは失格である。
それにしても汗をかかないトレッキングは今までなかった。
こんな風な登山も良いなとあらためて実感した。Tさんありがとう
下っていると次々と工事関係者の車が追い越して行くのだが、
その度にプッとクラクションを鳴らして手を振ってくれる。
出発時と云い帰りと云いこんな気持ちが晴れ晴れすることは初めてだ。
本当に土地柄が忍ばれる。天城がますます好きになった。
16時半に無事愛車に到着する。
「Tさん暗くなってしまいましたが、天城隧道見たいですか」
「悪いですねぇ できたら見てみたいです」
ステアリングを下田方面に切り回す。
もう周囲はかなり暗くなった。
しばらく走り、寒天橋方面に左折する。
ここからは未舗装になる。
樹林帯はすっかり闇だ。
隧道までかなり距離がある。前回の東からの縦走の折には、ここを歩いたのだから足も強かった。ソールが剥がれたことを懐かしく思いだした。
「Tさん真っ暗ですけどこれが石川さゆりさんの世界ですよ」と冗談を言うと
「いいですねぇ天城越え」と楽しげに答えた。
隧道に到着する。
車を降り、Tさんは隧道入り口に立った。
Tさんが「踊り子」を読んだか映画を観たかは聞かなかったが、これで予定のミッションは終了したのである。
そうそう、東名高速の渋滞を避け、伊豆スカイライン経由で帰ってきたのだが、亀石峠から箱根峠までずっと霧の中だった。破線登山道よりもこちらの方が数倍怖かった。

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